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名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)2541号 判決 1990年1月12日

原告

岩月眞

ほか一名

被告

平尾長滋

主文

一  被告は、原告岩月眞に対し、金八三五万五六三六円、原告岩月大一郎に対し、金一一〇九万八五五〇円、及びこれらに対する昭和五八年九月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告岩月眞(以下「原告眞」という。)に対し、金三六一六万一九六〇円、原告岩月大一郎(以下「原告大一郎」という。)に対し、金二二二三万七〇七九円、及びこれらに対する昭和五八年九月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和五八年九月三日午後九時頃

(二) 場所 一宮市松降二丁目八番二〇号先交差点(県道一宮各務原線路上)(別紙現場見取図参照)

(三) 被告車 普通乗用自動車(尾張小牧五五の二六一一)

(四) 運転者 被告

(五) 態様 原告らが県道と南北に交差する市道との信号機の設けられていない交差点内を県道を横断するため、原告眞が長男の原告大一郎(昭和五六年一〇月二九日生)と手を繋いで横断歩行中、県道を南方に向かつて直進して来た被告車に衝突され、原告らは後記のとおり受傷した。

2  責任原因

被告は、被告車を自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

3  原告らの受傷及び治療経過等

(一) 原告大一郎

(1) 受傷

脳挫傷、両側性硬膜下血腫、上下肢麻痺、右麻痺性尖足

(2) 治療経過

本件事故当日から昭和五八年一一月一八日まで大雄会病院に四九日間入院し、その後は昭和六〇年七月三一日まではリハビリテーシヨンのため概ね継続的に通院(実日数三四日)し、以後は同院において半年に一回脳波検査をして経過観察中である。

(3) 後遺症

昭和六〇年七月二四日症状固定したが、左頭頂部に脳挫傷による脳瘢痕があり、右下肢の極く軽度の運動障害と境界域程度の知能障害(知能指数は田中ビネー式でIQ78であるが、IQは100が標準であり、68以下は精神薄弱とされている。)を残しており、現在はてんかん発作はないが、脳波上では棘波があり、将来において外傷性てんかんを起こす可能性がある。

右後遺障害は自賠法施行令二条別表の後遺障害等級表(以下「等級表」という。)の第九級一〇号に該当する。

(二) 原告眞

(1) 受傷

左大腿骨々折、左下腿両骨粉砕骨折、左腓骨神経麻痺、頸椎捻挫、腎損傷

(2) 治療経過

(イ) 大雄会病院

本件事故当日から昭和五九年六月五日まで二七七日間入院

昭和五九年六月六日から同年一一月七日まで(実日数七五日)通院、なお、この間、同年九月二〇日から同月二八日まで九日間入院

昭和五九年一一月八日から昭和六〇年六月二一日まで二三五日間入院

昭和六〇年六月二二日から同年九月一〇日まで(実日数五九日)通院

(ロ) 国立東名古屋病院

昭和六〇年九月一三日から昭和六一年三月一六日まで(実日数五八日)通院

昭和六一年三月一七日から同月三一日まで一五日間入院

昭和六一年四月一日から同年五月一三日まで(実日数一六日)通院

(ハ) なお、治療期間が長期化したのは、観血手術後左大腿骨、下腿骨とも骨癒合が不十分で治癒が遷延し、昭和五九年一月六日に左下腿に骨移植術、同年一一月九日に左大腿骨に骨移植術、さらに昭和六〇年二月一五日に左下腿に偽関節手術と再度の骨移植術を行うなど、手術が繰り返されたためである。

(3) 後遺症

昭和六一年五月一三日症状固定し、(ア)左大腿骨回旋変形治癒骨折、(ロ)左膝関節屈曲拘縮、(ハ)左腓骨神経麻痺を残したが、右(ロ)及び(ハ)は軽度であり、主要なものは右(イ)であつて、この後遺障害のため両足を揃えて歩行しようとすると主に股関節に内旋位が強制されることとなるし、また股関節を中間位で歩行すると左側で外旋位歩行となる。そのため、原告は、日常生活上、(イ)走ることが全くできない。(ロ)正座が不可能である。(ハ)便所でしやがみ込むことが困難である。(ニ)少し長い距離を歩くと左下肢が腫れてくる。(ホ)歩くとき少しびつこをひく。等の点で苦痛を感じている。

右後遺障害は等級表の第一二級七号に該当する。

4  損害

(一) 原告大一郎

(1) 通院付添費 八万七五〇〇円

通院の際に母親が付添つたが、一日当たり二五〇〇円の割合で三五日分。

(2) 逸失利益 一三一四万九五七九円

原告大一郎は、前記後遺障害のため、満二二歳から六七歳までの四五年間にわたつて、昭和六〇年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・男子労働者・新大卒の年令二〇歳から二四歳の年収額二四二万六五〇〇円を基準とし、その三五パーセントの得べかりし利益を失つたものと見るのが相当であるところ、新ホフマン方式により年五分の割合で中間利息を控除して右逸失利益の現価を算出すると、次のとおり一三一四万九五七九円となる。

2,426,500×0.35×15,4833=13,149,579

(3) 入・通院慰藉料 一五〇万円

(4) 後遺症慰藉料 六〇〇万円

原告大一郎の前記知能障害の後遺症は、同原告の生活全般に対し生涯にわたつて重大な影響を及ぼすことが懸念されるので、このことは慰藉料の算定において斟酌されるべきである。

(5) 弁護士費用 一五〇万円

(二) 原告眞

(1) 治療費 三三万一一五〇円

但し、国立東名古屋病院の自由診療分と国保患者負担分。

(2) 付添看護料 三六万円

近親者の付添につき、一日当たり四〇〇〇円の割合で九〇日分。

(3) 入院雑費 五二万七〇〇〇円

入院日数五二七日につき、一日当たり一〇〇〇円の割合。

(4) 通院交通費 二五万二二七〇円

(イ) 大雄会病院分 一四万一二七〇円

タクシー代として片道五一〇円、往復一〇二〇円(呼出料含む)で、往復分一三六回、入退院の片道分五回の合計額。

1,020×136+510×5=141,270

(ロ) 国立東名古屋病院分 一一万一〇〇〇円

タクシー代として一回につき一五〇〇円で七四回分の合計額。

(5) 休業損害 二二七五万円

原告眞は、昭和五四年七月に株式会社ノーリツ製の風呂釜等の販売及び修理を目的とした「可児住宅設備」を岐阜県可児市内で独立開業し、その後昭和五六年九月に愛知県一宮市に移り、「一宮ノーリツサービス」の名称でノーリツ製の風呂釜、太陽熱温水器、給湯器のボイラー等の修理専門業者として、本件事故時まで従事して来たが、本件事故前一年間である昭和五七年九月一日から同五八年八月三一日までの所得は、月平均七〇万円を下らなかつた。

しかるに、原告眞は、前記受傷により本件事故当日から昭和六一年五月一三日までの三二・五か月にわたつて全く就労することができなかつたので、この間の損害は次のとおり二二七五万円となる。

700,000×3.25=22,750,000

(6) 逸失利益 一五一四万四三六〇円

原告眞は、前記後遺症状の固定時満三七歳であり、その就労可能年数は満六七歳までの三〇年であるが、前記後遺障害のため労働能力を一四パーセント喪失し、その間の得べかりし収入は年平均六〇〇万円を下らなかつたから、新ホフマン方式により年五分の割合で中間利息を控除して右逸失利益の症状固定時における現価を算出すると、次のとおり一五一四万四三六〇円となる。

6,000,000×0.14×18,029=15,144,360

(7) 入・通院慰藉料 四〇〇万円

(8) 後遺症慰藉料 二五〇万円

(9) 損害の填補 一二二〇万二八二〇円

前記(1)ないし(8)の損害合計額四五八六万四七八〇円から受領済の右填補額を控除すると、残損害額は三三六六万一九六〇円となる。

(10) 弁護士費用 二五〇万円

5 結論

よつて、被告に対し、原告大一郎は前記損害合計額二二二三万七〇七九円、原告眞は前記残損害額三三六六万一九六〇円に弁護士費用二五〇万円を加えた三六一六万一九六〇円、及びこれらに対する昭和五八年九月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、(一)ないし(四)は認め、(五)は原告眞が長男の原告大一郎と手を繋いで横断歩行中との点は知らないが、その余は認める。

2  同2の事実中、被告が被告車を自己のために運行の用に供していたものであることは認めるが、その余は争う。

3  同3の事実中、(一)は(1)及び(2)は認め、(3)は否認し、(二)は(1)及び(2)(イ)は認め、(2)(ロ)は知らないし、(2)(ハ)は争い、(3)は否認する。

4  同4の事実は争う。原告大一郎の逸失利益については、同原告は将来における外傷性てんかん発作の可能性は少なく、かつ、後遺障害が残つたとしても、軽度の運動障害と境界域程度の知能障害であり、今後の教育・訓練により後遺障害に順応する可能性や職業選択の可能性が比較的大きいと考えられ、就労可能年令に達した後において、その労働能力を相当程度失わしめるとは断じ難いので、同原告が後遺障害により減収を来たす蓋然性が高いと認めることはできない。また、原告眞の逸失利益についても、その喪失率及び喪失期間は、同原告の主張よりも制限されるべきである。

5  同5は争う。

三  抗弁

1  過失相殺

仮に、被告に本件事故による損害賠償責任があるとしても、本件事故は、被告が被告車を運転して時速約四〇キロメートルで進行中、原告らが被告の走行車線上に飛び出したという重大な過失により発生したものであるから、本件事故による損害額の算定に当たつては、右過失を斟酌すべきである。

2  既払金

原告大一郎は、被告から治療費として一八五万八四二〇円、通院付添費等として三八万四〇〇〇円、以上合計二二四万二四二〇円の支払を受け、原告眞は、被告から治療費として七〇三万〇七六〇円、休業補償費等として一一一〇万一九四五円のほか、自賠責保険から後遺障害分として二〇九万円、以上合計二〇二二万二七〇五円の支払を受けた。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。本件事故は、被告が制限速度を超える時速約六〇キロメートルの速度で前方を注視せずに進行した過失により発生したものである。

2  抗弁2の事実は認める。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故の発生)の事実中、(一)ないし(四)及び(五)のうち原告眞が原告大一郎と手を繋いで横断歩行中との点を除くその余は、いずれも当事者間に争いがない。

二  同2(責任原因)の事実中、被告が被告車を自己のために運行の用に供していたものであることは、当事者間に争いがない。

そうすると、被告は、自賠法三条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

三  請求原因3(原告らの受傷及び治療経過等)の事実について判断する。

1  原告大一郎について

(一)  請求原因3(一)の(1)(受傷)及び(2)(治療経過)については当事者間に争いがない。

(二)  同3(一)の(3)(後遺症)について検討するに、鑑定人永井肇の鑑定の結果及び証人永井肇の証言によれば、原告大一郎の後遺症状は昭和六〇年七月二四日固定したが、左頭頂部に脳挫傷による脳瘢痕があり、右下肢の極く軽度の運動障害を残していること、現在はてんかん発作はなく、薬物治療も行つていないが、脳波上では棘波があり、将来において外傷性てんかんを起こす可能性はあることが認められる。

また、右各証拠によれば、知能障害の有無については、昭和六二年八月四日施行の田中ビネー式知能検査では、原告大一郎のIQは78で境界域であつたが、これと本件受傷との因果関係については、本件事故以前のIQが不明であることや、検査によつても知能に非常に関わり合いの深いと思われる前頭葉に神経膠症の所見が現われていないことから見ると、本件受傷により知能程度が直ちに右のように低下したものということはできないが、一歳一〇か月で本件事故に遭遇した以前には新生児期及び乳幼児期に特に異常を認めるような既往がないこと、本件事故による頭部外傷後の意識レベルの回復が遅く、かつ、神経症状の回復過程において発語の回復が遅れたこと、頭部外傷により左頭頂葉を中心に脳挫傷を起こしたと考えられる検査所見がCT及びMRI検査で指摘されたことなどに鑑みると、本件事故による頭部外傷が脳に機能障害をもたらし、原告大一郎の知能の発育になんかの影響を与えたであろうことは推察できることが認められる。

以上によれば、原告大一郎の右後遺障害は等級表の第九級一〇号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当程度に制限されるもの」に該当するものと認めるのが相当である。

2  原告眞について

(一)  請求原因3(二)の(1)(受傷)及び(2)(イ)(大雄会病院)については当事者間に争いがない。

(二)  成立に争いのない甲第七一ないし第七三号証、原告眞本人尋問の結果により成立の認められる甲第一二一号証及び原告眞本人尋問の結果によれば、請求原因3(二)の(2)(ロ)(国立東名古屋病院)及び(ハ)(治療期間の長期化)を認めることができる。

(三)  請求原因3(二)の(3)(後遺症)について検討するに、前掲鑑定の結果及び原告眞本人尋問の結果によれば、原告眞主張の症状固定時にその主張の後遺障害が残つたことが認められ、これは等級表の第一二級七号「股関節の機能に障害を残すもの」に該当するものと認めるのが相当である。

四  請求原因4(損害)について判断する。

1  原告大一郎について

(一)  通院付添費 八万七五〇〇円

原本の存在及び成立に争いのない甲第八二号証、第八四号証、第八六号証、第八八号証、第九〇号証、第九二号証、前掲甲第一二一号証によれば、原告大一郎は大雄会病院へ三五日通院し、その際母親が付添つたが、その通院付添費(交通費を含む)として一日二五〇〇円当たりの割合による八万七五〇〇円を要したものと認めるのが相当である。

(二)  逸失利益 九二七五三七四円

原告大一郎は前記後遺障害の症状固定時満三歳であるところ、被告らは、同原告の将来における外傷性てんかん発作の可能性は少なく、また、今後の教育・訓練により後遺障害に順応する可能性や職業選択の可能性が比較的大きいと考えられる旨主張する。しかしながら、前掲鑑定の結果及び証人永井の証言に照らし勘案しても、将来における外傷性てんかん発作の可能性が少ないと速断することは危険であり、また、教育・訓練による順応性についても、どの程度の期待が持てるのかは必ずしも明らかではなく、職業選択の可能性が比較的大きいとまで断定することは困難である。

以上のような訳であつて見れば、原告大一郎は、前記後遺障害のため、満一八歳から六七歳までの四九年間にわたつて、昭和六〇年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計の年令一八歳から一九歳の年収額一八四万九六〇〇円を基礎とし、少なくともその三〇パーセントの得べかりし利益を失つたものと認めるのが相当であるから、新ホフマン方式により年五分の割合で中間利息を控除して、右逸失利益の本件事故発生時における現価を算出すると、次のとおり九二七万五三七四円となる。

1,849,600×0.3×16,716=9,275,374

(三) 入・通院慰藉料 一一〇万円

原告大一郎の前記受傷の程度、入・通院日数及び治療経過等に照らすと、同原告に対する慰藉料は一一〇万円とするのが相当である。

(四) 後遺症慰藉料 五〇〇万円

原告大一郎の前記後遺障害に照らすと、同原告に対する慰藉料は五〇〇万円とするのが相当である。

2  原告眞について

(一)  治療費 三〇万二五七〇円

前掲甲第七二、第七三号証、甲第一二一号証によれば、原告眞は前記受傷の治療費として三〇万二五七〇円を支出したことが認められ、右認定を左右する証拠はない。

(二)  付添看護料 三一万五〇〇〇円

成立に争いのない甲第四〇号証、前掲甲第一二一号証によれば、原告眞は、前記入院期間のうち本件事故当日から九〇日間付添看護を必要とし、近親者の付添看護を受けたことが認められるところ、右付添看護に必要な費用は、経験則上一日当たり三五〇〇円と推認するのが相当であるから、その合計額は三一万五〇〇〇円となる。

(三)  入院雑費 五二万七〇〇〇円

原告眞は、前記五二七日間の入院を余儀なくされたが、その間の入院雑費として、経験則上一日当たり一〇〇〇円の割合による五二万七〇〇〇円を要したものと認めるのが相当である。

(四)  通院交通費 二一万九二三〇円

弁論の全趣旨により成立の認められる甲第七五号証の一ないし六二、前掲甲第一二一号証によれば、原告眞は、(イ)大雄会病院への前記通院日数一三四日及び入退院五回につき、タクシー代として片道五一〇円、往復一〇二〇円(呼出料を含む)の計一三万九二三〇円、(ロ)国立東名古屋病院への前記通院日数七四日のうち少くとも四〇日につき、タクシー代として往復二〇〇〇円の計八万円、以上合計二一万九二三〇円を支出したことが認められ、右認定を左右する証拠はない。

(イ) 1,020×134+510×5=139,230

(ロ) 2,000×40=80,000

(五)  休業損害 一二七八万七九七二円

前掲甲第一二一号証、原告眞本人尋問の結果によれば、同原告は本件事故当時その主張のような営業を行つていたところ、前記受傷により本件事故当日から昭和六一年五月一三日まで三二か月と一一日にわたつて稼働することができなかつたことが認められ、右認定を左右する証拠はない。しかしながら、その所得については、本件事故前一年間分の主張・立証のみしかなされておらず、しかも右一年間を見ても月間売上の金額に相当な変動があることや、成立に争いのない乙第一号証の一及び二に照らすと、同原告主張の営業所得はにわかに措信し難く、他に同原告の経常的な営業所得を認めるに足る的確な証拠はない。

そこで、原告眞は少なくとも昭和六一年賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・男子労働者・学歴計の年令三五歳から三九歳(同原告は昭和二三年一二月一九日生)の年収額四七四万一九〇〇円を基礎に計算した額の収入をあげえたものと推認することができるから、その休業損害は次のとおり合計一二七八万七九七二円となる。

4,741,900+12×32=12,645,066

4,741,900+365×11=142,906

(六) 逸失利益 一〇九二万一九二三円

原告眞は、前記後遺障害の症状固定時満三七歳であり、その就労可能年数は満六七歳までの三〇年と認められところ、同後遺障害の部位及び程度に照らすと、右障害のため右就労期間にわたり労働能力の一四パーセントを喪失したものと認めるのが相当である。そこで、前記収入を基準に新ホフマン方式により年五分の割合で中間利息を控除して、右逸失利益の本件事故発生時における現価を算出すると、次のとおり一〇九二万一九二三円となる。

4,741,900×0.14×16,452(19,183-2,731)=10,921,923

(七) 入・通院慰藉料 三六〇万円

原告眞の前記受傷の程度、入・通院日数及び治療経過等に照らすと、同原告に対する慰藉料は三六〇万円とするのが相当である。

(八) 後遺症慰藉料 二〇〇万円

原告眞の前記後遺障害に照らすと、同原告に対する慰藉料は二〇〇万円とするのが相当である。

五  過失相殺について

1  原本の存在及び成立に争いのない甲第四三ないし第四六号証、原告眞(但し、後記措信しない部分を除く。)及び被告各本人尋問の結果によれば、次の事実が認められ、原告眞本人尋問の結果中この認定に反する部分は措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(一)  被告は、被告車を運転し、時速約五〇キロメートルの速度で本件道路の第二車線を南方に向つて進行し、本件事故現場付近にさしかかつた際、折柄交通閑散であつたことに気を許し、遠方の交差点の信号に気を奪われ、進路右方及び前方の安全を確認しないで進行したため、本件交差点を西方から原告大一郎と手を繋いで本件道路センターライン付近まで横断していた原告眞を前方約六・六メートルに迫つてはじめて発見し、急制動の措置をとつたが間に合わず、別紙現場見取図の<×>点(センターラインより一メートル足らず入り込んだ地点)で被告車の右前部を原告らに衝突させた。

(二)  他方、原告眞は、原告大一郎と手を繋いで本件交差点を西方から横断して本件道路のセンターライン付近にさしかかつた際、北方から接近して来る被告車を発見し、被告車をやりすごそうとしたが、本件道路のセンターラインより一メートル足らず入り込んだ地点に佇立していたため、前記見取図の<×>地点で被告車の右前部に衝突された。

2  右認定の事実によれば、本件事故の発生については、被告に右方及び前方の安全不確認の過失があることは明らかである。

しかし、他方、原告眞にも、夜間に幹線道路を横断する際に道路のセンターラインより被告車の走行車線上に入つて佇立していたという過失があることが認められる。そして、双方の過失割合は、被告が七五パーセント、原告眞が二五パーセントと認められる。

従つて、原告眞の右過失は、本件事故の発生態様に照らし、同原告の損害額の算定に当たつてのみならず、監督義務者の過失として原告大一郎の損害額の算定に当たつても斟酌することとする。

3  そこで、原告大一郎の本件事故による全損害としては、前記四1の(一)ないし(四)の合計額一五四六万二八七四円に既払治療費として当事者間に争いのない一八五万八四二〇円を加えた一七三二万一二九四円と認められるので、前記過失を斟酌し、その二五パーセントを減額すると一二九九万〇九七〇円となる。

次に、原告眞の本件事故による全損害としては、前記四2(一)ないし(八)の合計額三〇六七万三六九五円に既払治療費として当事者間に争いのない七〇三万〇七六〇円を加えた三七七〇万四四五五円と認められるので、前記過失を斟酌し、その二五パーセントを減額すると二八二七万八三四一円となる。

六  損害の填補

1  原告大一郎について

原告大一郎が被告から合計二二四万二四二〇円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、これを同原告の前記損害額一二九九万〇九七〇円から控除すると、残損害額は一〇七四万八五五〇円となる。

2  原告眞について

原告眞が被告及び自賠責保険から合計額二〇二二万二七〇五円の支払を受けたことは当事者間に争いがないから、これを同原告の前記損害額二八二七万八三四一円から控除すると、残損害額は八〇五万五六三六円となる。

七  弁護士費用

本件事案の内容、訴訟の経過、認容額その他諸般の事情を勘案すると、本件事故と相当因果関係のある損害として原告らが被告に請求し得る弁護士費用額は、本件事故時の現価に引き直して、原告大一郎は三五万円、原告眞は三〇万円とするのが相当である。

八  結論

そうすると、被告は、原告大一郎に対し一一〇九万八五五〇円、原告眞に対し八三五万五六三六円、及びこれらに対する本件事故発生の日である昭和五八年九月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

よつて、原告らの本訴請求は、右限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺本榮一)

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